下記インタビューは”PS2版”発売当時に行われたものですので、一部PS2版のみに限定されたコメントがあります。ご了承下さい。

EVE
制作者インタビュー


プロデューサー<金杉はじめロングインタビュー>
<制作開始秘話>
金杉:まず、萌え一辺倒の恋愛ゲームを私自身、数多く製作してきましたが、 恋愛とは別の芯を通した作品をそろそろ製作する時期なのかもしれないと考えていました。 そうじゃないモノを求めている人が大勢いるに違いないと。

そんな折に私の元へ「EVEの完全新作を製作してみないか」というお話しが舞い込んできたのです。

「EVE」の印象と言えば、PCで「EVE burst error」が発売された当時プレイをしてかなり衝撃を受けた 「伝説のゲーム」です。管野さん(※1)の構築する世界観、シナリオ構成の見事さ、 まりなと小次郎の会話の妙など、すべてに渡り圧倒的パワーを感じ大きな影響を受けました。
自分自身も「Piaキャロ」シリーズをスタートする以前は、「LIPSTICK ADV 3」や「ネクロノミコン」 といった探偵モノやミステリー作品の製作をしており、当時の「EVE burst error」には特別の思いと言いましょうか、 尊敬と憧れの念を抱きました。その伝説のゲーム「EVE」を製作するお話が私の元に舞い込んだ事は非常に驚きましたし、 EVEファンの方々が納得のいく作品を果たして作れるのだろうかという疑問を自分に対して何度も投げかけました。 また仮に製作するとしても、

“21世紀の「EVE」を紡ぐことの出来るシナリオライターは?”
“今の時代のまりなと小次郎を描けるクリエイターは?”
“これを纏め上げる監督は?”


この答えが出るまでは開発に踏み切ることは無いだろうと考えていました。

しばらく自問自答を行う内に私の頭にひらめいたのは「EVER17」の打越鋼太郎氏でした。
氏のキャラクターの表現力とストーリーテリングのセンス。比較的若い世代のユーザーから多くの支持を得ている氏であれば、 「今の時代のEVE」を、まりなと小次郎を表現できるに違いないと考え、直ちに氏へ連絡を取りました。 そして、新宿の某ホテルで打越氏にお会いし、「新しい時代のEVE」を制作しようと持ちかけました。
そして打越氏から快諾の返事がもらえ、私と打越氏はその決意をかためたのです。
     ※1菅野さん:菅野ひろゆき氏。「EVE burst error」を生んだゲームクリエイター

<最高のスタッフにより製作開始>
金杉:私がそうであったように「EVE burst error」の世界感とカッコ良さを理解した上で 「今の時代にマッチしたまりなと小次郎を描けるシナリオライターとデザイナー」、 というのが絶対条件で、その答えが打越鋼太郎氏と橋本タカシ氏でした。

そして、プロジェクト全体が刺激的な方向へと向かっていく為に 「シナリオライターとデザイナーの高度なコラボレーションが何より大切」だと考えました。

それには、まず、
「技術」。
それから
「お互いをリスペクトできるかどうか」。
そして、組み合わせたときの
「マッチングの良し悪し」

という3つのファクターが高度なコラボレーションを生み出すために必要でした。

幸いにして二人は会う前から互いに「ファン」の関係にありました。技術もあります。 2人をくどき2人を結びつけるのが私の最大のシゴトでした。言ってみれば仲人のようなものです。 マッチングについては私の主観にすぎませんが「君と僕が組んだら面白いよ」と2人は互いに思っていたかもしれません。
そして、2人のコラボレーションは、打越氏のプロットが出来た段階でこれを読んだ橋本氏がキャラクターデザインを行い、 プロットから得たインスピレーション(妄想)のままに橋本氏がイメージボードを出力する、 そしてまた、イメージボードに刺激されシナリオを膨らませていくという形で行われ、 とても刺激的なプロジェクトとしてスタートを切りました。ええ、暴走もあったと思います。
そして、この2人のコラボレーションを客観的に見つめ、リソースを論理的に管理・演出する強力な監督が必要でしたので、 長年信頼を置いている鳴野かのか氏に「ヨロシク!」と一言依頼をしました。 私が好き勝手なことを言うだけ言って何もしない分、一番苦労をかけたのではないかと思います。 ちなみに、ゲーム中のムービーも鳴野氏がつくっています。

<サウンド面のこだわり。>
金杉:打越氏とは食事をしながら映画や音楽の話を何度かしていたので、好みの方向は予め理解していました。 「EVE」の音楽の方向性を話したときに打越氏から映画の「スナッチ」っぽい雰囲気でいきましょう言われ、 大いに盛り上がりました。

そして私は、元々ジャズベーシストでジャジーな雰囲気を得意とする畠義人氏にこの仕事を依頼しようと考えました。

さて、よくあるゲームの作り方を踏襲すると音楽リストの指示通りにプロフェッショナルがBGMを制作するわけですが、 定番通りにならないようイメージを膨らませるために今回は音楽リストの無い段階からBGMを制作しました。 それを、打越氏に聴いてもらって雰囲気を確認しつつ、それぞれの曲をどの場面にはめていくかを考えてもらいました。
もちろん、どの場面にもあてはまらない曲はふるいにかけた上で、 改めて監督から音楽リストを作成してもらうという方法をとりました。 BGMは数量的にも充実していると思います。畠義人氏の渋いサウンドに浸って下さいませ。

<オープニング曲、エンディング曲について>
金杉:私は音楽プロデューサーとしてHoney BeeというバンドをつくってPCゲームやTVアニメに楽曲を提供したり、 歌姫と呼ばれる多くの方に歌の仕事を頼んできましたが、今回ばかりは「キラ・キラ〜」なんて歌う女子の声はNGだろうと思い、 女子ボーカルの線をまずはずしました。
そして、打越氏と私の共通の好み、 「The chemical brothers(ケミカルブラザーズ)」に代表される「ブレークビーツ」というジャンルをインストで作ることにしました。
歌のないインスト曲を一人でこつこつと作って打越氏やまわりのスタッフに聴かせたところ気に入ってもらいつつも、 自分的には「何かパンチにかける・・・」と思っていました。そこで、コーランの一節をサンプリングして曲の後半に挿入したところ、 これが非常にマッチしまして、新しい「EVE」の幕開けに相応しいかも・・と悦に入っていたのですが、 さすがにコーランはマズいだろうという事になりました。既にムービー製作にも突入していたのでやや焦りつつ、 中近東の言語が使えてコーランのようなイメージで歌える男性ボーカリストはいないものかと探しはじめました。
東京は人口が多いとはいえ、そんなピンポイントを探し当てるのはフツーは無理ですよね。 ところが何とも幸運なことに、ヘブライ語の使えるイスラエル人の男性ボーカリストを探し当てることが出来ました。

「我々はどこからきてどこへ向かうのか?愛は何のためにあるのか?」

打越氏のプロットの表紙に引用されたゲーテの書簡の一節をヘブライ語になおし、 男性ボーカリストをレコーディングブースに放り込むと、故郷の節回しを取り入れた深い声が腹の底から出てきました。
「CODE GENE」 意味深なタイトルです。

エンディングテーマを歌うのは白土麗さんという新人のシンガーソングライターです。 当初から「EVE」をつくるならエンディングは白土さんでいこうと心に決めていました。
新人とは言え、白土さんはメジャーデビューをしかけたこともある方で、 楽曲のストックは100曲以上にも上り、どの曲も心の奥に語りかけて来るステキな曲ばかり。 彼女の音楽性をありのままいい形で世に出したいと思っていました。 そして、自宅で録音された4〜50曲のCD-Rをお借りして打越氏とふたりで片っ端から聴きこみ、 最終的にその1曲を打越氏が選ぶという形へとなっていきました。 とある登場人物の心境を語る歌、それが「EVE」のエンディングテーマとして選ばれた曲「いつか見た青い空」です。
※エンディングは、PS2とPCは共通、オープニングはPS2についてのコメントです。

<ゲームの見どころ>
金杉:ホントはシナリオの打越さんや監督の鳴野さんに語ってもらったほうが良いと思うのですけど、私がしいて言うならば、まりなと小次郎、二人の会話のコンビネーションにまずは注目して欲しいです。そして、今回の新キャラ、橋本氏がデザインした乃依とアルト。この二人がストーリーにどう絡みどのように展開してどういう結末を迎えるのか、その辺を楽しみにして下さい。 声優陣も実力派揃いの豪華キャストです。大御所・実力派の中で名塚佳織さん演じる記憶喪失の乃依に萌えて下さいませ。
あとはまりなの肉体。胸といいましょうかむしろ太ももでしょう(笑)


原案・脚本<打越鋼太郎>
<脚本を引き受けた理由>
打越:「ぼく自身がEVEシリーズのファンだったから」というのが、大きな理由のうちのひとつです。 中でも特に「burst error」は印象深い作品でした。初めてプレイしたときの衝撃は、今でもよく覚えています。 また「burst error」は、後のAVG作品だけでなく、様々な分野のサブカルチャーに絶大な影響を与えた先駆的な作品だったようにも思います。 PC98版が世に出てからもう11年……。それでもいまだにファンは絶えることなく、 今日まで「歴史的な傑作」として語り継がれています。
そのシリーズの最新作の開発に、かかわらせていただくことができる――。
この業界に生きるクリエイターならば、誰でも心惹かれるのではないでしょうか。 つまり、クリエイターとしての純粋な好奇心、あるいは冒険心みたいなものに、突き動かされたということです。

<プレッシャーとの戦い>
打越:「burst error」は神の宿った作品(人智の及ばぬ領域へと達した作品)であると、個人的には思っています。 それを原点としたシリーズの最新作に、一から臨まなければならない。襲い来るプレッシャーと闘いながらの作業は、困難を極めました。 「無謀な挑戦だ。勝算は低い。今からでも遅くはないから手を引くべきなんじゃないのか。ほら、触らぬ神に崇りなしと言うだろう」 耳に届くのはそんな囁き声……。振り払うようにして作業を続ける……。悶々とする日々が続きました。

ところがある日のこと、ふと、気づいたのです。

「結局、どうあがいたところで、このプレッシャーを拭うことはできない。 ならば、それをうまい具合にモチベーションへと転化させるしかないだろう。 大事なのは、重圧に立ち向かうことではなく、それとどう折り合いをつけてやっていくかだ」

それまでのぼくは、歴代の作品を過剰に意識しすぎていたのです。 するとどうしても守りに入らざるをえなくなります。 結果として、物語は退屈でつまらないものに……。これでは本末転倒です。
ですから「今はとにかく、過去の作品に囚われることなく、 自分にできることを、精一杯、全力を尽くしてやってみよう」……そう思ったのです。
すると、それまでガチガチに固まっていた肩から、すーっと力が抜けていくような気がしました。

そのときからぼくの目標は「神に近づくこと」ではなく「1本の面白いゲームを作り上げること」へと軌道修正されたのです。 とはいえ、これまでの作品から目を背けるわけにはいきません。設定を踏襲し、使えるところは最大限活用させていただきながら、 物語を書き進めていきました。また、EVEならではの独特の世界観を壊さないよう、細心の注意も払ったつもりです。 やはり何といっても、一番苦労した点、気をつけた点と言えば、これらのことに尽きると思います。

<テーマとは>
打越:ひとことで言ってしまうと【目に見えないもの】だと思います。
たとえば、人間の感情、心模様、自我、本質……。もう少し具体的に言うと「他者と自己との境界はどこにあるのか、 それらを区別するモノとは一体何なのか」みたいなことです。
ミステリー的な要素としては「人体消失」を使ったイベントが何度か発生します。これもやはり【見えないもの】に関係していると言えるでしょう。 さらに「時間」――。時間の流れも、目には見えないですよね。
そして最後は「ウイルス」です。物質として存在してはいますが、肉眼で見ることはできないと思います。 実際、このウイルスが、ヴィジュアルとしてゲーム中に登場することはありません。
この点を、プレイヤーの皆さんがどのように解釈されるか、個人的にはたいへん興味のあるところです。

<みどころ>
打越:これはプレイヤーの皆さんがそれぞれ発見していただければ幸いに思います。
EVEシリーズはジャンル分けが難しい作品です。特に「burst error」にその特徴は顕著なのですが、
ある人はラブストーリーだと言い、ある人はハードボイルドだと言い、またある人はミステリーだと言います。
そればかりではなく、SF的な要素も絡んでいますし、テーマは極めて哲学的ですし、各キャラクターに注目するならば人間ドラマであるとも言えるでしょう。
さらに物語には、コミカルな場面と、シリアスな場面が絶妙なバランスで配置されている……。「まさにそれこそがEVEなのだ」とぼくは思います。EVEシリーズは、ある特定の分野にカテゴライズされない作品なのです。 もちろん今回の作品「new generation」も同じです。上に挙げたような要素が随所に散りばめられています。
ですから、見所については、プレイヤーの皆さんが「何に一番興味があるのか」によって変わってくると思うのです。

<脚本的な仕掛けとは>
打越:ぼくがこれまでに携わらせていただいた作品の中で「2つの視点を使った物語」というのは「new generation」で3本目になります。 というわけで、今までの経験から、マルチサイトの特性、利点、何ができて何ができないのか……みたいなことについては、ある程度把握しておりました。 今回の作品では、そのような特徴を活かした仕掛けがふんだんに盛り込まれております。ぜひともご期待ください。


キャラクターデザイン<橋本タカシ(FC-G)>

<キャラクターデザインとは>
橋本:どのキャラが、という以前に、今までやってきた作品とテイストというか、
求められるものが明らかに違うので、作品に向かう姿勢みたいなものから変えていく必要がありまして。
そういうところがいちばん大変でした。

小次郎・まりななどの既存のキャラに関しては、前作から引き継いだイメージを崩さないのは大前提として、
今回頂いた設定やプロットを何度も読み直しながら慎重に進めていった感じです。
新規のキャラに関しては、概ね楽しんで描いていたように思います。
もちろん一筋縄ではいきませんでしたが、その試行錯誤っぷりが楽しかったというか(笑)。


<個別のキャラクターについて>
■小次郎
あまりにも個性が確立され過ぎているせいか、アレンジのしようがありませんでした(笑)。
季節感も考えて薄着にしたりもしてみましたが、結局スーツをラフに着こなす今のスタイルがいちばんカッコイイという結論になりました。
■まりな
小次郎とは違い、いろいろ似合いすぎて困らされました(汗)。
服装だけでも10着以上考えられたのですが、どれも着こなしてくれるというか…とても幅の広いキャラでした。当初、現行のVer.にジャケットを着ていたのですが、「露出が欲しい」との意見から、思い切って外しました。
■乃依
いちばん好き勝手できたキャラだと思います。
描いていて苦労というのはほとんどありませんでした(笑)。
ビジュアルもほぼ即決に近かったと思います。
■アルト
キャラの置かれた立場がとても微妙なところにいた為、乃依と比較しつつどう弄るか悩まされましたが、性格の違いを最大限に反映させました。
■弥生
シリーズを通して様々な服装で登場するので、方向性を絞るのに時間が掛かりました。
その後、女性らしさを出しつつ、露出を控える今のスタイルに落ち着きました。
■氷室
登場する場所を最大限に意識しました。
完全に観光地仕様というか…街中で歩くことをまったく考えていませんし、それで良いとも言われたので(笑)。
■エフィ
シリーズを通して比較的良く登場する外見年齢だったので、とにかく他のキャラと被らないよう気をつけました。
■鍾本
なんと言っても髪形ですね。
「コーンロウ」という単語はこのキャラを描くまで知りませんでした(笑)。
まったく描いたことのないパターンだったので混乱もしましたが、不思議と描いてて楽しかったです。
■三六九
設定が珍妙かつ面白くて、どう描いたものかなーとか思ってましたが、意外とすんなり描けました(笑)。 ストッキングとか着物の裾のボロボロ加減とか、ほんと弄り甲斐のあるキャラでした。

2007年4月13日更新

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